M&Aアドバイザーに依頼しただけで、希望の案件が持ち込まれることはまずありません。
買う側にもそれ相応の準備が必要です。
目次
M&Aにおける買手側の現状
日本経済は、高度成長期をとうの昔に終え、少子高齢化によって市場は収縮し、以前のようにコツコツまじめに経営しているだけでは、会社の成長は望めない時代になっています。
もちろん、成長は諦め、「身の丈にあった」経営をする、というのもひとつの戦略です。
しかしながら、規模を拡大した方が、経営の安定性が増強され、できることが増えていくのも事実であり、ほとんどの企業は多かれ少なかれ、成長をめざしています。
このような時代の中で、成長のための経営戦略といえば、「海外進出」か「M&A」くらいしかない、というのが現状です。
つまり、多くの企業がM&Aで会社を買収したい、と考えているのです。
おそらく、あなたの会社のライバル会社も、M&Aを考えていることでしょう。
私のところにも、売却希望の相談の、10倍以上の購入希望の相談が来ます。
しかし、ほとんどの会社がM&Aで会社を購入できることはありません。
ほとんどの会社がM&Aで会社買収ができない理由
上から目線で恐縮ですが、会社購入の相談に来る方たちは、ほとんどが大きな勘違いをしています。
私のところに、100件以上の案件がストックされていて、条件を伝えれば希望に合う案件を紹介してくれる、と。
不動産屋を訪れた場合と同じようなイメージでいるのでしょう。
実際には、最大手のM&A仲介会社であっても、1年で成約する案件は100件程度です。
つまり、売り案件自体が非常に希少であり、M&A市場は、「超売手市場」なのです。
また、もしも、希望に合う案件を保有していたとしても、冷やかしの買手には、まず紹介しません。
なぜなら、M&Aは不動産とは異なり、機密事項が多く、信頼できない買手にはそもそも案件を紹介することができません。
そのような買手に安直に情報を提供して、情報漏洩などの問題が生じては、せっかく仲介を依頼してくれた売手との信頼関係が崩壊してしまいます。
また、M&A実務の手続きはこれまで説明してきたようにけっこう大変です。
なんの準備もしていない会社では、この手続きを実行することができず、M&A契約の締結までたどり着けません。
M&Aアドバイザーも商売です。
案件を紹介しても購入しない買手を、相手にしている暇はありません。
また、ふさわしくない会社が買収してしまうと、売手が不幸になってしまう可能性もあります。
ビジネスとはいえ、売却先は選ばなければ、健全なM&Aが世の中に広まりません。
これに関連して、欲しい案件が明確ではない買手に案件を紹介することもありません。
よくあるのが、「いい会社があれば、紹介してほしい」という相談です。
「いい会社って何ですか?」と聞き返したくなります(笑)。
「いい人がいれば紹介して」と言う知人に、パートナーを紹介するでしょうか?
せっかく紹介しても「いや、好みじゃないんだよね」と断ってくるのが目に見えています。
しかも、こういう知人ほど、現実が見えておらず、身の程を弁えずに面食いだったりするので質が悪い(笑)。
繰り返しになりますが、案件を紹介しても購入しない買手を、相手にしている暇はありません。
実際のM&Aの流れは、売り案件が出たら、いままで相談に来ていた買手候補のストックの中から、信頼できて、案件を購入しそうな買手のところに案件を持ち込みます。
つまり、「売り案件」がスタートなのです。
そして、通常、M&Aアドバイザーは「売り案件」の発掘に血眼になっています。
「売り案件」さえ見つかれば、買手は見つかります。
「買いたい」という相談を受けても、アドバイザーは聞いておくだけで、具体的なアクションをとることは、通常ありません。
一般の取引のように、お客様は「神様」ではありません。
買手は、「買ってやる」のではなく、「買わせていただく」のです。
買手に選択の余地はほとんどありません。
もちろん、あなたの会社が、案件を持ち込めばそのまま言い値で購入してくれる、気前のよい会社であるのであれば話は別ですが。
厳しいことを書いているかもしれませんが、ここに書いていることを気をつけるだけで、M&Aアドバイザーが真剣に相手をしてくれる可能性が高まります。
「こいつはズブの素人じゃねえな」と(笑)。
M&A部門の立ち上げ
そうは言っても、M&Aアドバイザーから案件を持ち込まれるのを、座って待っていられない!という方もいらっしゃるでしょう。
私、そういう方、嫌いじゃないです(笑)。
そうであれば、M&A部門を立ち上げて、こちらから積極的にしかけましょう。
さきほどの「逆」をやればいいのです。
欲しい会社を明確にして、M&Aを実行できる意思と能力を明示し、信頼関係を構築して、M&Aアドバイザーを動かせばいいのです。
M&A成功のポイントであり、かつ、M&A部門立ち上げにあたって最初にするべきが、「経営戦略に紐づいたM&A戦略の立案」です。
あなたの会社がどこを目指していてるのか、という経営戦略に基づいて、どのような会社をM&Aするべきなのか、M&Aを実行する基準を明確にした「M&A戦略」を立案するのです。
たとえば、「ビジネスの上流から下流までを押さえる」という経営戦略を立てた場合に、全くの異業種をM&Aすることは、M&A戦略の上でも好ましくありません。
M&A戦略でも、経営戦略に従って、関連する上流と下流の会社のM&Aに絞り込むべきです。
「いい案件が持ち込まれてから検討する」無計画なM&Aでは、持ち込まれた案件の採否の判断に時間がかかってしまいます。
M&Aの基準があれば、案件が持ち込まれたときにすぐに判断できます。
たとえ、案件を採用しない場合でも、「1億以上の案件は交渉しないことにしている」などとアドバイザーに即答しましょう。
アドバイザーの立場からは、案件を採用しないこと自体については気にしません。
ビジネスですから。
しかし、困るのは意思決定が遅くて、別の買手を探すべきかどうか、という判断ができないことです。
アドバイザーの印象が悪くなると、次の案件を持ち込んでもらえなくなります。
また、「1億円以上」という不採用の基準をアドバイザーに伝えることで、次からは1億円未満の案件を持ち込んでくれるようになるでしょう。
そして、このような対応ができる買手は、M&Aに慣れている印象を与えます。
「ズブの素人じゃねえな、本気と書いてマジと読むやつだな」と(笑)。
とくに、M&Aが初めての買手に案件を持ち込むことは躊躇われます。
なぜなら、買収の意思を持って交渉に進んだとしても、その後のM&A実務の手続きに手間取って契約締結にまで至らないリスクがぬぐえないからです。
しかしながら、案件を持ち込んだ段階で好印象を与えることで、アドバイザーは安心して案件を持ち込むことができるのです。
このように、アドバイザーとの信頼を深めていけば、希望する案件を持ち込んでもらえる可能性が高まっていきます。
また、欲しい会社が明確で、信頼が高い買手に対しては、売り案件が出てから紹介するだけではなく、買手のために売り案件を発掘する、という具体的なアクションをとることもあります。
売手M&Aアドバイザーの買手の見つけ方では、買手の発掘方法をご説明しました。
同じ方法で、今度は逆に売手を発掘するのです。
つまり、ロングリストで売却に興味がありそうな会社を20~30社ピックアップします。
それらの会社に会社売却の意思がないか、お声がけをしていきます。
あとの流れは、買手発掘の場合とほぼ同じです。
まとめ
待っているだけで、買手がM&Aで会社を購入できることはほとんどありません。
M&Aアドバイザーとの信頼を深めたり、M&A部門を設立してM&A戦略を立案することで、希望するM&Aを掴み取りましょう。