企業価値評価Ⅳ 年買法

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実務三郎

DCF法も、類似業種比準法も、弱点があることはわかりましたが、M&Aの実務ではどのように評価しているのですか?

貝井
もちろん、DCF法や類似業種比準法を用いる場合はありますが、中小企業の「スモールM&A」の場合には、「年買法」を用いることも多いです。

 

目次

年買法とは?

年買法とは、営業利益などの3~5年分を「営業権」として、営業権に時価純資産を加えることで、企業価値を評価する方法です。

 

さっそく、具体的に見てみましょう。

A社の概要が以下のようになっていたとしましょう。

営業利益 10百万円
簿価純資産 50百万円

 

また、BSに計上している土地に以下のような含み益があったとします。

土地の簿価 40百万円
土地時価 60百万円
差異(土地の評価益) 20百万円

 

この場合、まずは、営業権は以下のように算出します。

10百万円(営業利益) × 3年 = 30百万円

時価純資産は、以下のように算出します。

50百万円(簿価純資産) + 20百万円(土地の含み益) = 70百万円

よって、企業価値は、以下のように算出します。

30百万円(営業権) + 70百万円(時価純資産) = 100百万円

よって、買収価額は100百万円になります。

 

修正純資産は、要するに、いま、そのまま会社を解散すると、いくらくらいの資金を回収できるか、ということを意味します。

営業権は、買収後、だいたい3年くらいは、このままの調子で営業利益をあげることができるだろう、ということを意味します。

ここで、営業権を3年分とするのか、5年分とするのか、ひょっとしたら、10年分とするのか、というところが問題となると思います。

ここは「見積もり」です。

魅力的な会社で、買手が多く現れて争奪戦となる、となれば、5年、はたまた10年といった長期の営業権を想定するでしょう。

逆に、あまり魅力的ではなく、買手も現れない、となれば、3年、はたまた、1年、場合によってはゼロ、といった短期間の営業権を想定するでしょう。

また、必ずしも、営業利益でなくても、経常利益や税引後利益を用いる場合もあります。

 

さて、かなり計算方法が容易に感じたのではないでしょうか。

「だいたい、3年くらいは今の調子が続きそうだから、その期間の利益と、会社が持っている財産の分を会社の対価としてお支払いします。」

これなら、中小企業の経営者でも直観的に十分理解できる説明です。

 

年買法の欠点

年買法は直観的に理解しやすい方法です。

しかしながら、ファイナンスの理論的な根拠がないという非常に大きな欠点があります。

証券アナリスト(私も資格を保有しています)や、ファイナンスの大学院を卒業した金融マンに、年買法を説明すると、ボコボコに否定されます(笑)。

つまり、買手は、事業から利益をあげるために買収したはずなのに、会社を清算することを前提とした修正純資産という概念を持ち込むとはどういうことだ?

また、営業権についても、なぜ、3年とか5年の期間の利益だけを買収価額に上乗せするのか?

それ以降に獲得する利益はなぜ考慮しないのか?

などとツッコミどころが満載なのです。

 

ですので、大企業のM&Aにおいては、上司、取締役、株主に「理論的に」「客観的に」説明することができないので、年買法を用いるのは適当ではありません。

しかしながら、中小企業のM&Aにおいては、「理論的な根拠」よりも、「経営者の主観的な納得」の方がよっぽど重要です。

理論的なDCF法や類似業種比準法でいくら説明しても、経営者は納得してはくれません。

それよりも、理論的な根拠を無視してでも、直観的でわかりやすい年買法で説明した方が、経営者は納得してくれて、M&Aは前に進んでいくのです。

中小の企業のM&Aの目的は、M&A契約の締結、ひいては、M&Aによって、買手と売手がハッピーになることです。

間違っても、専門家が自分の専門知識を見せびらかすことではありません。

 

このサイトも同様に、「理論的な正しさ」よりも、「一般人の理解のしやすさ」を重視して記事を執筆しております。

専門的見地において不正確な細かい記述があったとしても、理解重視のためだから仕方ない、とご容赦ください(笑)。

 

まとめ

年買法とは、営業利益などの3~5年分の「営業権」と「時価純資産」で会社の評価をする方法です。

理論的な根拠はありませんが、中小企業の経営者が直観的に理解しやすいため、スモールM&Aの現場ではよく使われます。

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