買手側の専門家が、買手に財務デューデリジェンス報告書を提出します。
報告書をもとに検討した結果、問題がなければ、契約締結に向けて具体的な条件を詰める段階に入ります。
目次
財務デューデリジェンス報告書とは?
財務DDの専門家が、資料確認と現地調査の結果を、「財務デューデリジェンス(DD)報告書」にまとめます。
当然ですが、財務DD報告書の内容は、法律で決まっているわけではありません。
結論だけ1枚で終わるDD報告書もあれば、500ページ以上に及ぶDD報告書もあります。
余談ですが、私の知人が依頼された仕事に、「大手監査法人が作成したDD報告書が、ぶ厚すぎて読み切れないので、重要なポイントを10ページ程度でまとめて欲しい」というのがありました(笑)
大手企業のDDでは、分厚い報告書が必要になることもあります。
当然、売手も大手企業でビジネスや会計が複雑であることが多いのが一つの要因です。
それよりも大きな要因は、大手企業においては、M&Aの実行部隊は、経営企画部などのサラリーマンです。
彼らは、取締役会や株主への説明のために、「これだけ十分な検討をしました」ということを、証拠にして残す必要があります。
ぶ厚い資料があれば、M&Aが失敗した場合にも、「これだけ詳細な検討をした上での失敗ですので、我々の責任ではありません」と言い訳ができます(笑)。
このために、大手企業は、高額の報酬を支払って、大手監査法人にぶ厚いDD報告書の作成を依頼するのです。
中小企業であれば、経営者がM&Aの先頭に立ち、買収企業もそれほど複雑ではなく、DDにそれほど費用をかけたくないのが通常です。
ですので、必ずしもぶ厚いDD報告書は必要ではなく、M&A検討に必要な本質的な報告だけで十分です。
なお、売手DD専門家が作成した報告書は、買手には提出されません。
売手にとって都合の悪い情報も報告しなければならないため、売手を忖度していては報告書の役割は果たせません。
また、今後の価格交渉の材料にもなるので、売手に手の内を明かすわけにはいかないのです。
財務デューデリジェンス報告書の具体的内容
たとえば、あるDDで私が作成した財務DD報告書の目次は以下のようになります。
パワーポイントで20~30P程度です。
目次
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.エグゼブティブサマリー
1.対象会社の概要
2.対象会社の株主構成
3.財務情報の要約
4.重要な発見事項の要約
(1) 貸借対照表に関する分析
(2) 損益計算書に関する分析
Ⅲ.重要な発見事項の詳細
1.重要な発見事項
2.それ以外の発見事項
Ⅳ.財務情報の詳細やその分析
1.会計処理基準
2.貸借対照表分析
3.損益計算書分析
「はじめに」には、「財務DDは限られた時間と費用でやっているので限界があり、全部を明らかにできるわけではないので、問題があっても専門家の責任ではないですよ」といったDD専門家の言い訳などが書いてあります(笑)。
「エグゼクティブサマリー」とは、要するに、M&Aの可否に大きな影響をあたえる事項で、忙しい買手経営者であっても、ここだけは読んでほしい、という部分を要約しています。
重要な発見事項は、財務情報の詳細や分析において検出された事項のうち、重要なものが記載されています。
財務情報の詳細やその分析には、たとえば、現預金や売掛金などの勘定科目ごとに調査した内容や調査結果が記載されています。
これは、必ずしも経営者が読まなくても、M&Aの担当者が読むだけでも十分です。
DD報告書の留意点
中小企業のDD報告書には、おそらく、多くの検出事項が記載されています。
しかも、大手会計事務所やその出身の財務DDの専門家は、自分たちのリスクヘッジ(リスクを検出できなかったことのクレームを受けないため)のために、必要以上に細かい検出事項も網羅的に報告しがちです。
ですので、DD報告書を受け取った時には、そのリスクが果たして重要な影響があるのか、また、M&A実行後のPMI(事業統合)で修復できるのか、慎重に検討する必要があります。
たとえば、10万円の売掛金が回収不能であるにもかかわらず、貸倒処理していなくても、そんなものは、M&A全体で見れば、はっきり言ってどうでもよいことです。
しかし、一方で、1億円の売上を架空計上していた、となれば、金額面からも売手経営者の誠実性からも、買収を見送る決断を検討する必要があります。
中小企業の経営管理体制やコンプライアンスは、大企業ほどに整備されてはいません。
だからといって、リスクが多すぎるという理由でM&Aを見送っていては、中小企業のM&Aなどできません。
リスクは存在することを前提に、どの程度までそのリスクを受け入れられるかを検討しなければなりません。
まとめ
資料確認と実地調査の結果を、財務DD報告書にまとめます。
中小企業のDD報告書には、検出事項が多く並んでいるのが通常です。
しかし、すべてのリスクに過敏に反応していては、中小企業のM&Aなどできません。
関連する個別具体的なお悩み解決サポート業務