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DD現地調査の概要
買手が依頼した資料は、一部は事前にDDの専門家に提出しますが、膨大な資料のすべてをメールや郵送で提出することは現実的ではありません。
そこで、売手に一か所に資料を集めてもらい、そこにDDの専門家が赴いて資料を確認をすることが一般的です。
また、用意された資料を閲覧するだけではなく、DDの専門家が売手にその内容を質問したり、追加の資料を依頼することもあります。
大企業のM&Aであれば、DDだけでも、30名以上の専門家が訪問して、2週間以上ぶっ通しで実施する場合もあります。
しかしながら、中小企業のM&Aであれば、せいぜい2-3名の専門家が2-3日訪問すれば完了することが多いです。
私も、中小企業対象の標準的なDDの依頼であれば、私ひとりで、2日の訪問で終わらせてしまいます。
検出事項に関する情報
では、財務DDの専門家は、どのような情報を収集していくのでしょうか。
まずは、提供された資料の正確性を検証します。
検証の結果、誤っていると検証された項目は、検出事項として買手に報告されます。
意図的ではない検出事項
中小企業の決算では、大企業のように、厳密に会計基準に則って会計処理していないことが通常です。
ただし、中小企業においては、厳密な会計処理を求めるのは酷です。
慣れたDDの専門家からすれば、「想定内で仕方ないけど、一応、報告はしないと」という感じです。
これらの事項は、買収の成立の可否に影響することは少ないですが、売却価格交渉にあたっては、減額要請の根拠となります。
以下のような事項が、よくある検出事項です。
売掛金 | 回収できない売掛金を、貸倒処理していない。 |
棚卸資産 | 滞留している棚卸資産を、評価損計上していない。 |
ゴルフ会員権 | 購入時のままの評価で、時価評価していない。 |
リース資産 | すべてのリース資産を費用処理している。 |
退職金 | 退職金規定があるのに、退職金の引当金を計上していない。 |
意図的な検出事項
先ほどの検出事項は、あくまで、会計基準の適用レベルによるものでした。
一方で、売手が意図的に「操作」している事項も検出されます。
もちろん、これも中小企業ではよくあることではありますが、このような検出事項については、DDの専門家も慎重にならざるを得ません。
これらの事項は、場合によっては、買収の成立の可否に影響することもあります。
以下のような事項が、よくある検出事項です。
売掛金 | 架空売上げを計上していたり、逆に、一部の売上を計上していない。 |
棚卸資産 | 棚卸資産の残高を帳簿上で調整している。 |
固定資産 | 減価償却費を計上していない。 |
借入金 | 帳簿上には計上していない借入金がある。 |
賃借料 | 経営者の不動産を、不自然な価格で会社に貸し付けている。 |
買収後の経営統合(PMI)に関する情報
慣れていれば、決算書を見るだけで、会社の概要はだいたいわかります。
従って、決算書の誤りを検出し、実態に即した決算書のイメージが掴めれば、買収後の経営の方向性もだいたいイメージできます。
しかしながら、単に決算書を見ただけでは、わからない情報があるもの事実です。
たとえば、従業員について、各人の年齢や役職、給料や実際の業務内容は決算書からは見てとれません。
DDにおいて、これらの情報を入手することによって、現状の組織構造を理解して、買収後のあるべき人事戦略を考えていくのです。
たとえば、従業員が高齢化していて、数年後に定年退職していく、ということがわかれば、それに合わせて人員を補充する必要があります。
また、営業において、売上の50%を従業員のAさんが上げている、ということがわかれば、買収後にAさんを辞めさせるわけにはいかないでしょうし(こういう人物をキーパーソンと言います)、また、買収後にAさんに頼らない営業体制を構築しなければなりません。
たとえば、売上相手先を分析した結果、買手がこれまでアプローチをしてきたが取引できなかったB社との取引があることが判明した場合を考えてみましょう。
買収後に、売手の取引実績を利用して、B社に対してアプローチすることが可能か、営業戦略を考える必要があります。
また、新規取引による経済的効果がどれくらいなのかということも見積もることができれば、譲渡価格の交渉にあたっての参考になります。
買収後の統合(PMI)を考えるとともに、買収を進めてよいのか、ということも同時に検討する必要があります。
たとえば、キーパーソンを引き留めることができないので、買収の効果を得られない、と判断すれば、買収自体を取りやめることになります。
まとめ
DDの実地調査では、決算書の誤りを検証したり、買収後の経営統合に必要な情報を入手します。
調査の結果しだいで、売却価額が変動したり、買収自体が取りやめになる可能性があります。