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売却側は人生で一度きり
M&Aで会社を売却する機会は、一部の経営者を除けば、人生で1回だけなのが通常です。
一方で、買手側は、多くの割合でM&Aを何度か経験しています。
最初は恐る恐る、M&Aで会社を買ってみると思いのほか上手くいき、味を占めて(というと失礼かも)2社目・3社目のM&Aを実行していくのが、ありがちなパターンです。
M&Aを何回も繰り返していくうちに、ノウハウを身につけ「M&A巧者」になっていくのです。
翻って、売手側について考えてみると、M&Aで会社を売却した経験を蓄積している会社など、ほぼありません。
これは、M&Aの交渉において、買手側の方が経験豊富で、交渉を優位に進めやすい、ということです。
マイホームを買う時を想像してみてください。
通常、売手である住宅の販売業者は、業として(要するに、対価を得て繰り返し)毎日のように不動産を販売しています。
一方で、買手であるサラリーマンにとって、マイホームは「人生最大の買物」であり、せいぜい、不動産を購入する機会は2・3回しかないのが一般的です。
「販売業者に騙された」というサラリーマンはいても、「サラリーマンに騙された」という販売業者は寡聞にして聞きません。
M&Aの経験がない、ということはそれだけで大いに不利なことです。
そのため、売手は、独力でM&Aに臨むのは現実的ではなく、不動産取引において不動産業者に仲介を頼むように、プロのM&Aアドバイザーに依頼することが現実的です。
「誠実で、能力のあるプロの売手側M&Aアドバイザー」についてもらうことで、この不利を克服することができます。
アドバイザーはピンキリ
そのM&Aアドバイザーですが、なんら資格が必要なわけではなく、実は、誰でも名乗れば「M&Aアドバイザー」になれます。
不動産取引では「宅建士」資格(ちなみに私も宅建士資格保有者です)という資格がないと、業として不動産取引をすることはできません。
これにより、不動産取引に携わる者に制限を課することによって、取引の安全性の確保を図っているのです。
このような制限のある不動産取引においても、詐欺や不正取引などのトラブルは後を絶ちません。
翻って、M&Aについて考えてみると、不動産よりも個別性が高い「会社」という商品を、なんの資格も保有しない者が扱っているのです。
これでは、トラブルが生じない訳がない(笑)。
では、M&Aアドバイザーはどのように選べばよいのでしょうか。
「大手M&A会社なら安心」かもしれません。しかし、大手M&A会社は高額な手数料が稼げる案件しか、手を出しません。
「何千万円」という料金を支払うことができる会社であればよいですが、中小企業がこのような料金を支払うことは現実的ではないでしょう。
では、巷に溢れている、中小のM&A会社はどうでしょうか。
M&Aのスキルの見識もなく、「M&Aアドバイザー」を名乗ってはいるものの、ただ、会社を右から左に流すだけのいわゆる「ブローカー」が少なくありません。
このようにM&Aアドバイザーも様々であり、どのアドバイザーを選ぶのかによって、M&Aの成功は大きく左右されます。
「事前」と「事後」こそが重要
会社売却希望者は、うまく交渉して、なんとかいい条件で売却しようと考えがちです。
しかし、交渉に入ってから頑張っても、その成果はそれほど大きくありません。
当然ですが、「儲かっている会社」は高く売却できます。
逆に、儲かっていない会社を、いくらうまく交渉したところで、高く売却するのは難しいのは当然です。
つまり、M&Aに入る前に、会社の本質的な「価値」を高めておくことが、M&Aでの会社売却のポイントなのです。
また、いくら利益を上げていても、現在の経営者がいなくなると経営が回らなくなる会社は魅力的ではありません。
売手にとっては、M&A契約の締結で「終わり」ですが、買手にとっては「始まり」であり、買収後に、利益を上げていくことこそがM&Aの目的なのです。
つまり、買手がM&A実行後に事業統合(PMI)をしやすいように、現経営者がいなくなっても経営が回るしくみを持っている会社にしておけば、買手に魅力的に映り、売却額も高くなるのです。
まとめ
会社売却のポイントは、以下の3つです。
①売手と買手の能力格差を自覚する。
②誠実で能力のあるM&Aアドバイザーを選ぶ。
③M&A後のことを考えて事前準備をする。